【制作秘話3】『兎tocome』
正直に申しますと、タイトル、ダサいですよね(笑)ですよねっていうか、ダサいと思います。
・タイトルについて
番組プロデューサーさんがこのタイトルを決められたのですが、タイトル案を送って下さったときは、「……だっせー…」って思っちゃいました。
でも、これにだってちゃんと意味はあります。各楽曲中、一番タイトルにガチガチに意図を組み込んでいます。誰がどれだけ「ださいよ!」って言っても、これは『兎tocome』じゃないと表現できません。
まず、この曲はなんとかコピンクス!でイベントをやりたい、それなら現実的な場所・静岡駿府マラソンのステージでイベントをやりたい!という現実的かつ明確な目標があり、ランナーを応援する曲を作ることが、そのための第一歩でした。
今思えば2年越しの企画、この曲のおかげで、先日3/2のピンクス・コピンクス!スペシャルライブが駿府マラソン前日イベントとして実現したわけです!
そして、ゴローのCVさわやか五郎さんが歌が割と上手いということもあり、せっかくなんだからゴロー曲でまず作りましょう、と話を進めることになりました。
ゴローさんとは以前も曲を作ったことがあるスタッフさんなので、この企画は順調でした。
犬のゴローは本当は兎なので、キャラクター像を考えても「走る」や「跳ぶ」など、アクロバティックな印象がありましたので。
そこで構成作家さんである竹屋さんの歌詞がつき、私の歌詞も入れていただき、曲自体はどんどん完成していく中、タイトルがなかなか決まらないままでした。番組プロデューサーさん曰く「兎」や「競技」、「スポーツ」と連想していくと、イソップ寓話などにある「ウサギとカメ」の物語が出てきたこと。そして何より、歌詞の中に「君が駆けてくる」とあり、これからやってくる感を出すために「とカメ」を「to come」の未来を想起させる表現にしたそうです。イソップ寓話の方の兎は悪者だけど、こっちでは兎も亀も、みんな広義のランナーですね。そして、『カリーナノッテ』と『最高視感度』の背景となっていた都市をつなぐと、まさにランナーの物語「走れメロス」の舞台にもなる、というのも決め手だったようです。
生意気にもダサいとか言いましたけど、ここまで色んな考えを盛り込めるタイトルは私にはとても思いつきません。
・ゴローver
ゴローの声をあてて下さっているさわやか五郎さんは「上々軍団」というコンビで活動されているお笑い芸人さんです。上々軍団の漫才やネタを見たことがある方はわかると思うのですが、さわやか五郎さんは歌が上手いんです。最近は芸人さんの歌もめずらしくはないのですが、そういえば真面目に歌っているのはちょっと少なくなってきたね、とみなさんでお話ししていました。
なので、さわやか五郎さんにゴローとして、ボケ一切無しのマジ歌を歌っていただきました。作曲の依田さんの事務所で録音したのですが、本当に歌が上手くてびっくりしました。
後から聞いたのですが、さわやか五郎さんはネタではないマジ歌にちょっと抵抗があったみたいですが、音域が広くてシャウトがちょっと掠れていてかっこよくて、歌う姿も依田さん曰く三上寛みたいな往年のフォークシンガーっぽくて。芸人さんやめてその道を行けばいいのに…(笑)
早口の部分も、これは後でコピンクverについても触れる予定ですが、なんとほぼ一発OKだったらしいです。依田さんは細かく分けて録音されるつもりだったみたいなんですけど、思ったより早くレコーディングが終わったみたいです。
私はその部分のレコーディングが終わった後ぐらいに現場にお邪魔したのですが、もう普段落ち着いている依田さんが、かつてないほど嬉しそうにさわやか五郎さんを褒めちぎっていたのを覚えています(笑)
そして3/2に行われたピンクス・コピンクス!スペシャルライブでは無事に歌い切って下さいましたが、さわやか五郎さん、前日まで歌詞を覚えていなかったんです(笑)でも結果当日に歌えたのがもう本当にホッとしました。
舞台や生放送みたいなリアルタイムのもので台詞忘れてしまったり歌詞を忘れておどおどしている人を見るのって、観る側の方がどうしようもなく辛くなりませんか?気まずい空気が本当に本当に苦手なので、無事に成功して良かったです。前日にスタッフさんたちがだんだんピリピリしていくのが生きた心地しなかったんですけど、この曲のメインの歌詞を担当された竹屋さんと依田さんがその様子を面白がっていたのでなんか救われました。なんで私がビクビクしてんだろって。
また、五郎さん、この『兎tocome』がきっかけで、4月から静岡朝日テレビさんの新番組レギュラー出演が決まったそうですよ。
曲に関して。
まず一番最初に番組プロデューサーさんからは「マラソンっぽい、前向きな曲で、途中でラップのパートを入れたい。それをゴローがメインで歌い、コピンクはコーラスをする感じでお願いします」とお題が出されました。
そこで、基本的な歌詞は構成作家さんの竹屋さん、そして私がその途中のラップパートを担当することに決まりました。
ラップというと、私はどうしてもB系の「NY生まれヒップホップ育ち」っぽい雰囲気が先に出て来てしまうので、依田さんと竹屋さんと三人でまず「ラップって?」みたいな、番組プロデューサーさんの頭の中の解読から始めました。
ラップといっても、番組プロデューサーさんの趣向としてはきっとB系の事ではないだろうな、という所から始まり、どちらかというと早口言葉に近く疾走感を出してマラソンらしさを。「走る」という事はそもそも、単純に体を動かす運動としてとらえるエクササイズミュージックでもなく、もっと深い意味のことを考えてらっしゃるのだろう…とか。
音に関しては、さわやか五郎さんが歌うのでストリングスが入るいつもの感じではなく、もっとゴリッとした男くさいものでも良いのかもな、と。そんな話をダラダラと話していました。
詞先なので、竹屋さんも譜割をどうすればいいのかわからず相当迷われたようですが、「マラソン」がテーマの詞を書くにあたり、ランナー本人の目線でなく沿道にいる人たちにピントを合わされていましたね。竹屋さん自身がランナーではなかったのもありますが、ランナー目線ではないからこその応援歌だと思います。
私が担当したところは、ラップといっていいのかって感じでしたが…一応言葉遊びや響きに徹底してほしいと言われたのもあり、一見意味がわからないところが多々ありますよね。未だにラップと言われると「そうかなぁ」と疑問ですが、「最高視感度むさくるしい版」みたいなイメージで書いてみたつもりです。ただ、私の詞ってなんだかいつも揺れまくる心情系になってしまうので、絶対揺れないさわやか五郎さんが歌われるのも大丈夫かなぁって結構不安に思っていました。作曲の依田さんがこの『兎tocome』についてお話してくださったとき、「ズルいけどアツいな」って言って下さったのでちょっと安心しました。
私はそっちの「最高視感度むさくるしい版」に突っ込んだので、竹屋さんは極力シンプルにストレートに書かれたそうです。手前味噌かもしれませんが、そのバランスが私もとても好きで…
「フレー!フレー!」っていうフレーズも、文字だけ見れば応援歌としてはストレートでありきたりな表現ですけど、「期待寛大茹だるワード」とか言ったあとに「フレー!フレー!」っていう、そのギャップがなんとも言えないです。
それに、竹屋さんが書かれたと考えると可愛らしくて面白いねって、今回の制作秘話を書くにあたってスタッフさんとお話ししていました。コピンク*楽曲は歌い手さんが作詞作曲をしているわけでもなく、作詞と作曲が分かれている上によっぽどのことがないかぎり表に出ないから理解されることは難しいかもしれませんが、誰が何をどんな風に書くのかっていうのも、曲自体の魅力のひとつじゃないですか?
ちなみに、これは私の場合ですが曲もない状態で書いていたのでどうすればいいのかわからず、最初は語感のいいものばかりとにかく書きまくってみました。どのテンポでどのぐらいの尺なのか分からずひたすら書きました。実際に曲に入ったのは三分の一あるかないかでした。竹屋さんもどのぐらい書けばいいのか、譜割はどうすればいいのか、まったく何もない状態で書いたので、逆にあまり多く書かれていませんでした。
なので、依田さんからしてみれば、詞は少なくてラップは多すぎてかなり困ったようでした。これは私の感想ですが、暗中模索ってほどでもないですけど、みんな手探り状態でやっていたように感じました。
そんな状態だった詞を、依田さんがひとつの曲としてまとめて完成してくださったときは、感動というか、人間技じゃないってぐらい…一番みなさんと考えることが多かった曲でしたので感慨深かったです。
・コピンクver
もともと『兎tocome』はゴロー用の曲として作ったものでしたので、このコピンクverを作るにあたって色々と編集が必要となりますが、作曲の依田さんはコピンクちゃんを信頼しきっているので好きにアレンジしたらしいです。
私が覚えているのは、このコピンクverを作る前にコピンクス!一言集の録音のときに依田さんがコピンクちゃんに音域を訊いていたのを見たのですが、だからってそこから話しこんでいるわけでもなく。本当に「だいたいどのぐらい出せるの?」って軽い感じの会話でした。
それだけしか話していないのに、こんなに歌えてしまうなんて…。
時間を刻む音から始まり、アウトロはコピンク*楽曲の王道みたいになってきたストリングス音があるのがみんなのお気に入りです。
すごく嬉しかったのは、このコピンクverの歌詞を変えてもよかったこと。これはあるスタッフさんが「コピンクver用の歌詞にして下さいよ~!」と番組プロデューサーさんに言ってくれたおかげで、詞をアレンジすることが決まりました。
そしてもう一つ。それがきっかけで『兎tocome』の呼び方が「うさぎとかめ」にちゃんと決められたことでした。竹屋さんがその箇所を担当されたのですが、特別このことについて話していたわけではなかったのにも関わらず、ゴローのときにみんなに残った疑問や腑に落ちないところがきれいに解決されたような気がします。
それまでにも番組ツイッター等々でタイトルの読み方を訊かれたこともあったのですが、こちらもそれを答えられなかったんです。と言うのも、このタイトルを考えられた番組プロデューサーさんに私も同じような質問をしたことがあります。「これ、なんて読むんですか?」って。っていうかスタッフさんみんなも訊いてました。
それに対し、毎回番組プロデューサーさんがニヤニヤしながら「さぁ?」みたいな感じで返すんですね。まぁ今ははっきり決めないでおこう、とその時は話が落ち着きました。一応ゴローのときからみんな「うさぎとかめ」と読んでいたのですが、私だけだと思っていたらみなさんもモヤモヤしていたらしく(笑)、コピンクverで自分たちの伏線を回収できたぞ!ってすっきりしました。
私が担当した部分の詞に関しては、竹屋さんの書かれた「共に走ったすべての君」というフレーズに繋がるものがいいなって思いました。このフレーズがゴローverの時からずっといいなぁ好きだなぁ竹屋さん素敵だなぁって心にずっと残っていたので、またチャンスを頂いてまずはじめに「すべての君と進み続ける そんな私」と書きました。。
そしてここでも超努力型コピンクちゃんの天才伝説があるんです。
全部すごいんですけど殊更すごかったのは、早口の部分。先ほどさわやか五郎さんも一発OKだったと書きましたが、このコピンクverレコーディングでも一発OKだったこと。しかもレコーディング時だけでなくライブも完璧にやってくれました。
あまりに完璧だったので予備に二、三回録ったのですが、これもそれぞれ一発ずつで終わってしまうほどでした。この日のレコーディングは予定よりかなり早く終わりました。
練習してきてくれたなら相当な回数やってくれたのかもしれないし、ほぼぶっつけ本番だったにしろそれはそれで本当にすごすぎる。目が点になっていました。
そうそう、さわやか五郎さんがこの『兎tocome』の歌詞を覚えていなかったことでスタッフさんたちが表面ではニコニコしながら裏でものすごくイライラしていた中、コピンクちゃんに一度歌詞を覚えることは大変だったかスタッフさんと一緒に訊いてみました。
そうしたら彼女、「覚えることは難しくないですよ」とふわって笑って、「でも上手くやるのが難しいっていうか…その…」ってちょっとだけ恥ずかしそうに言っていました。
たとえば大学受験を引き合いに出すなら、難関な大学に受かることが最終目標なのか、将来やりたいことがあるからその課程のうちの一つとして大学に通うために勉強するのか、っていう大きな違いがありますよね。それにちょっと近い気がします。中学二年生でもうそれを見抜いているって恐ろしいくらい頭がいいと思います。
これは余談かもしれないですが、本来ならファルセットで歌う部分でしょうけど地声でいけるだけいってみよう、という部分があり、高音を頑張って出している彼女が可愛かったです。
そして依田さん曰く、データ上でみると、彼女の歌声の波形が超綺麗でエンジニアさんと一緒に感心していたらしいです。全てにブレがないだとか。これも今後のためにも彼女の伝説に加えて下さい!
ちなみに、この『兎tocome』は、ゴローverの配信が2012年7月4日で、コピンクverの配信は2012年12月5日でした。
コピンクverは少し遅くなっちゃったけど、番組プロデューサーさんを中心としたスタッフみんなから、コピンクちゃんへの誕生日プレゼント第二弾でした。
あと、このコピンクverのビジュアルイメージのイラストですが、曲の完成直前まで別のイラストでした。
今配信会社様やCDの歌詞カードにあるあの画像に変わった理由は、私が担当した箇所の歌詞に「靴の中なら隠していいでしょ」のフレーズが番組プロデューサーさんの琴線に触れたみたいで(笑)依田さんが所属されていてイラストなどを担当して下さっている10GAUGEさんに即連絡が行って、急きょ描き直したらしいです。ちょっと申し訳ないですが、そんな中でもかわいいイラストを描いて下さって嬉しかったです!
それまでゴリっとしたゴローの『兎tocome』をコピンクverにするにあたって番組プロデューサーさんのアドバイスがあったり、曲の雰囲気や歌詞を変えたり、ジャケットデザインもゴローとコピンクが表裏になっていたりと、細かいディティールの積み重ねでだんだんコピンクの世界が素敵なものに仕上がってゆくなぁと実感していたのが、私だけじゃなくてもちろん番組プロデューサーさんや依田さんや竹屋さん、そして関わって下さったスタッフみなさんもそう感じていたらしくて嬉しかったです。最初はすごく苦労しましたが、出来上がっていく過程も楽しいことに満ちていて、こうして振り返るといつも最後に「可愛かった」「よかった」「嬉しかった」みたいなことばかり書いてしまう。結果この曲のおかげで駿府城公園のライブも実現して…でも、魔法なんてないから。
次回はこのコピンク*企画のスピンオフで作られた『メ□セージ(feat.サラ)』について。
ミニアルバムには収録されていませんが、こちらも私は好きです。
この『兎tocome』が収録されたが収録されている『コピンクス!メロディーズ~star chart~』は、アップフロントワークスより2013年3月20日から販売予定です。
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この『兎tocome』については、竹屋さんとはお話しする機会があったのですが、依田さんとは時間がとれなかったのでメールでのやりとりでした。
最後に依田さんが書かれた一文が妙にぶっ刺さったので、そのまま載せちゃいますね。依田さんすみません。
「走りながら聴いたら、タイムが速くなるとか
いつもより長く走れるとか
あったらいいな」
2013年3月14日